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『S・O・S』 ウオーーーーーーン 遠吠えのようなものが聞こえた気がして、ははっと顔を上げた。 窓の外を見ると、見事な満月が煌々と辺りを照らしている。 月の光を浴びて野生の血をたぎらせた狼男が、忌まわしい己の体を呪って叫んでいるのか。 「なんて、まさかね」 は苦笑すると、持っていた本をパタリと閉じた。 「本の読みすぎかな」 は最近ホラーやミステリー、サスペンスといったものにはまっている。 今読んでいた本も物語は山場を向かえ、手に汗握るスリリングな展開となっている。 息もつかせぬストーリーに、のどはカラカラ。 冷蔵庫から何か飲み物を持ってこようと、はキッチンへ向かった。 時計は夜の十時をまわったところ。 ハオ組の面々はそろそろ床に就く時間だろうか。 キッチンへと続く薄暗い廊下はの足音だけがやけに響く。 ふいには背後に気配を感じ立ち止まった。 足音もさせずに、いつから後ろにいたのか。 まるで気がつかなかった。 「誰?そこにいるのは!?」 怖くなって振り返ると、目の前には見慣れた人物の顔があった。 「何だ、ハオだったの・・・」 ほっとしたは肩の力を抜く。 「どうしたのハオ、何か用・・・?」 「君に会いたくて」 「え?」 「君の顔が見たかったのさ」 そう言ってハオはおもむろにの手首を掴むと、自分の方に引き寄せた。 「な、何?何なの!?」 の頬に温かな息がかかる。 そこまでハオの顔が近付いて、初めてハオの異変に気付いた。 「ね・・・ハオ?ちょっといい?」 はハオに掴まれているのとは反対の手で、ハオの頭部に手をやる。 手に触れたのは髪の毛のものでない、あきらかにおかしな感触。 「これって・・・」 は手をどけると、少し顔を離して改めてハオの頭を見つめた。 頭の上にピンとたつ、二つの獣の耳。 耳、耳、耳・・・ 「耳っ!?」 はハオの手を振り払うと、両手で頭部の耳を掴んだ。 「痛っ!!」 「飾りじゃない・・・どうしてこんなとこに耳がついてるの!?」 はなおも耳を掴んでハオに問う。 「痛たたた、何のことかよくわからないんだけど?」 「耳よ!ハオの耳!何で獣耳がついてるのよ!?」 「獣耳・・・?そんなことより僕は・・・」 ハオには耳のことが気にならないのだろうか。 今度はの腰に手を回し、空いてる方の手での顎をくいと持ち上げた。 「君ともっと楽しいことをしたいんだけどね」 微笑むハオの口元から、ちらりと牙が覗く。 「だからちょっと大人しくしてて?」 ハオの顔が近付いてくる。 「いやーーーーーーー!!助けてーーーーーーーっ!!」 牙を見て食べられてしまうと勘違いしたは悲鳴をあげた。 響き渡るの声に、何事かと皆が駆けつける。 「どうした、」 「あ、ラキスト・・・ハオが・・・変なの・・・!」 「ハオ様が?」 ラキストがハオの方を見ると、に悲鳴を上げられて機嫌を損ねたハオが ぶすっとした顔でむくれていた。 頭には獣の耳、そしてふさふさのしっぽまでもがついているではないか。 「これは一体・・・。何があったのです?ハオ様」 「別に何も。ちっちぇえこと気にするなよ」 めんどくさそうにハオが答える。 「しかしこれではまるで、狼人間か何かのようで・・・」 不思議そうな顔をするラキストの言葉を無視し、ハオは再びの手をとった。 「、さっきの続きをしようか?」 「ラキストの話を聞けっ!本当に狼ね。ケダモノだわ!」 必死にハオから顔を遠ざけようとしながら、声を張り上げた。 「ねぇ、何とかならないの!?」 「そう言われてもな・・・」 ラキストは首をひねる。 「みんなでご飯を食べたときは何でもなかったよね?」 「となると、夕食後に皆がバラバラになってからか・・・」 ラキストとは二人で推測する。 「夕食は大体七時半位までだった。それからハオは一人で先に部屋を出て・・・」 「ハオ様、夕食後にどちらへ行かれたのですか?」 「ん・・・ただ自分の部屋に戻っただけさ」 「その後は?何か変なことしなかった?」 「変なこと・・・?喉が渇いたからキッチンに行って、机に置いてあった飲み物を・・・」 「それだわ!それが怪しい!!」 はハオの手を無理やり振り払った。 「その飲み物に変なものが含まれてたのね・・・」 「だが、誰がそんな物を作ることが出来る?そんな魔法のような・・・」 ラキストとはしばらく思案にくれたが、同時にある結論にいきついた。 「「花組!!」」 顔を見合わせ、声をそろえる。 「そういえば花組はここには来ていないな・・・」 ラキストが見回すその場には、花組の姿だけが見当たらなかった。 「花組を探してくるわ!ハオ、行くよ!」 やたらと腰や肩に手をまわしてくるハオを引きずるように、は廊下を駆け出した。 まずはその飲み物を調べて見なければ。 そう思ってキッチンに行くと、目的の人物達もそこにいた。 花組の三人は頭を寄せ合い、何か話をしている。 「カナ!マッチ!マリ!」 の鋭い声に、三人はぎくりとして振り返る。 「・・・それにハオ様も・・・!!」 「三人とも・・・ハオのこの耳としっぽ、原因知ってるわよね?」 「・・・・・・」 しばらく黙っていた三人だったが、マリオンが恐る恐る口を開いた。 「・・・ハオ様にプレゼントしようと思って・・・。・・・ごめんなさい・・・」 「怒ってる訳じゃないの。ただハオを早く元に戻して欲しいだけだから。 何でこんなことになったのか教えてくれない?」 が優しくそう言うと、マリオンに続いてカンナ、マチルダも事情を話しはじめた。 「あのね、マリちゃんとカナとアタシの三人で薬品を作ってたの。マリちゃんが提案してね。 狼みたいに強くかっこよくなれる薬」 「それで・・・まだ完成してなかったんだよね、あの薬。材料が足りなくてさ」 「それで材料を取りに行って戻ってきたら・・・瓶の中身が空っぽになってたの・・・」 「つまり・・・未完成の薬をハオが勝手に飲んじゃってあーいうことになったのね?」 しゅんとうなだれるマリオン、マチルダ。 カンナもうつむいてため息をついていた。 「結局ハオが悪いんじゃない。勝手に飲んだりするから。 それで、どうやったら元に戻すことが出来るの?」 「まだ完成してないから・・・太陽の光を浴びたら元に戻ると思うの・・・」 「・・・ってことは夜通しハオはこのまんま!?」 は思い切り嫌な顔をしてハオを見た。 花組がいるにもかかわらず、ハオはずっとにべったりとくっついてたのだった。 「薬のせいでこんなにも気持ちが昂ぶっていたのか・・・」 ハオは一人呟くと花組の方を向いて微笑んだ。 「さんきゅ、何だかとてもいい気分なんだ。お前達はもう下がっていいよ」 「ハオ様・・・怒ってない・・・?」 「ああ、むしろ感謝してるくらいだ」 「でも・・・」 まだ少し不安そうな顔をしているマリオンとマチルダ。 そこへ二人とハオの間にカンナが割って入り、 「バカ、こういう場合は気を利かせるんだよ」 そう言って彼女達の頭にポンと手を置いた。 「そっか、ごめんね!行こマリちゃん!」 「うん・・・じゃあね、・・・」 三人は並んで部屋から出ようとする。 「ちょ、ちょっと待ってよ!一体あたしにどうしろってのよ!?」 何故か嫌な予感がして、は花組を呼び止めた。 すると三人は振り返り、にっこりと意味ありげに微笑むと、 「「「ごゆっくり」」」 声を揃え、静かに扉を閉めた。 「ようやく二人きりになれたね」 扉が閉まった途端、背後からハオの声がした。 嬉々として言うハオに、は不穏なものを感じた。 ハオは耳をピンと立て、尾をパタパタと振っている。 「こ、この後の展開って・・・」 のこめかみに冷たい汗が流れる。 「そ、お約束」 「ちょっ、いやだ、待って!」 「待てない。いいじゃないか、夜はまだまだ長いんだから」 ハオはガバっとに飛びついた。 「いっただきまーす」 その後の二人がどうなったかは、神のみぞ知る・・・。 *後書き* 3000HIT、アルさんのキリリクドリです。 タイトルのS・O・Sはピンクレディーの歌から。 ♪男は狼なのよ〜気をつけなさい〜とかって歌詞のです。 (最近の人は知ってるのかな) 裏っぽいのは書けないので、最後やんわりとごまかしました; 私が書く中では甘い方かと・・・。 やたらラキストとヒロインが息あっちゃってるみたいです。 |