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『ふんばりが丘より愛をこめて 5』 麻倉葉とホロホロ。 二人のシャーマンの闘いに、私は見惚れていた。 目の前で繰り広げられる人知を越えた闘いは、巻き込まれればただでは済まされない。 本来なら命賭けの試合をする彼らを見て、恐怖を覚えてもいいはずだ。 なのに私は彼らの闘う姿に見惚れた。 純粋に、美しいと思ったのだ。 この戦いが終わってしまうのがもったいない。 ずっとずっと、見ていたい。 不謹慎なことだが、そう思うほど私は二人の戦いに魅入られていた。 それに、戦う二人の表情はきらきらと輝いていて、実に楽しそうだ。 だからこそ、私たちも安心して見ていられたのかもしれない。 ちらりと横目で隣のを見る。 も夢中で二人を目で追っていた。 (凄い・・・これが、シャーマンファイト・・・!!) 気温は低いはずなのに、握りしめた拳には汗がにじんでいる。 そうこうしている内に、激しい雪崩が葉くんを呑み込んだ。 これで、もう決着はついた。 (ああ、シャーマンファイトが終わってしまう) 少し寂しいような気持ちに襲われながらも、張り詰めていた緊張感が解けていくのを感じた。 まん太は葉がやられたものと思って大声を上げたが、私とは葉くんの勝利を知っている。 見ると、雪の塊を突き破って勢いよく葉くんが飛び出した。 オーバーソウルを纏った春雨を手に、ホロホロくん目掛けて振り下ろす! 振り下ろされた刃は、ホロホロくんの脇に反れて地面に大きな亀裂を入れた。 「外れた・・・!?いや、わざと外したのか!?」 「だっておめえ、とっくにO.S.が解けてるだろ」 そうして葉くんは、にかっと笑う。 「うえっへっへっ、おしかったなホロホロ。この試合、オイラの勝ちだ」 私達の初めて見たシャーマンファイトは、麻倉葉の勝利で幕を閉じた。 それから数日後。 民宿『炎』では葉くんの勝利を祝って、祝勝パーティーが開かれていた。 パーティーといってもここは民宿、みんなでどんちゃん騒ぎをする宴会のようなものだ。 竜さんが自慢の腕を披露してくれ、鯛のお造りやらお寿司やらのご馳走が目の前に並んでいる。 そう、ここで初めて“木刀の竜”こと竜さんにも出会うことができたのだ。 初めて竜さんに会ったときは、いきなり 「俺のベストプレイスになってくれぇ〜〜〜!!」 と飛びかかられて驚いたけれど、やんわりと(ははっきりと)お断りした。 それでも竜さんは強面な見かけによらず繊細で情に厚い人なので、 とても優しくしてもらっている。 他にも竜さんファミリーの面々や、何故か試合に負けたホロホロくんもいて、 私達は実に賑やかな時を過ごした。 しかしそんな和やかなムードも、ある少女の介入で途切れた。 ホロホロくんの妹、ピリカちゃん。 「シャーマンキングになれるのは、私のお兄ちゃんだけよ!」 ホロホロくんが初戦で負けたというのに、堂々とした振る舞いで宣言する。 その姿はどこかアンナちゃんを思わせる。 ピリカちゃんはそのまま、(どこから取り出したのか)投げ網でホロホロくんを絡めとり 強引に引きずって去って行った。 「よくも私達の夢を邪魔してくれたわね。私、絶対あなたを許さないんだから!」 去り際に、葉くんめがけて鋭い捨て台詞を残しながら。 彼女の憎憎しげな眼差しが忘れられない。 夕食の後に温泉に浸かりながら(もちろん女湯だ)、私は夜空を見上げた。 星空の下で温泉に入れるなんてロマンチックだが、私はあまりすっきりした気分ではなかった。 「どうしたの?」 「・・・うん、ちょっとね・・・」 勝った人がいれば当然負けた人がいる。 私がたまたま勝者である葉くん側にいたから浮かれていたが、 負けた人やその親しい人達の気持ちを考えると・・・。 「なーに暗い顔してんのよ?ホロホロだって『次があるー!』って前向きに考えてたじゃない」 それでも、考える。 一体この世でどれだけの夢が叶って、どれだけの夢が潰えていくのだろう、と。 「、ちょっと」 が人差し指を唇にあて、静かにするよう促した。 訳がわからなかったが、取り合えず口を閉じ、耳を澄ます。 声が聞こえた。隣の男湯から、誰かの声が響いている。 「ぼく、思うんだ・・・」 これは、まん太の声? 「王様はきっと、自分の夢を考えられないってー――・・・・・・」 どう?とが私の方を見る。 そう、そうだ。 漫画を読んだときにも同じように悩んで、まん太のセリフで楽に考えられるようになったっけ。 シャーマンキングになれる人は、みんなが夢に向かって頑張れる世界を作れる人なんじゃないかって。 「ま、深く考えなくてもいいってことよ。 誰がシャーマンキングになろうと、選ばれたからにはそいつには素質がある。 そんなヤツならきっと、世の中を悪いようにはしないんじゃない? とりあえずあたし達は、葉を信じて応援しよう」 そう言っては、明るく笑った。 「うん・・・そうだよね」 私は賛同しかけて・・・ふと気付く。 「・・・ハオ派じゃなかったけ?」 「あっはは!ま、気にしない気にしない。だってまだハオ様出てこないしさー」 それからは、ハオに会えない不満をぶつぶつと語りだした。 には満足いくまで語らせてあげよう。 私はだいぶ気分がすっきりした。 そう、私達が深く考えてもしょうがない事。 今は葉くん達を信じて付いていこう。 私達の物語は、まだ始まったばかりなのだから。 *後書き* 着実に登場キャラは増えていってますが、いまだメインの蓮くんとハオが・・・! 次の話はファウスト戦になります。 back |