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『神様、もう少しだけ』 その日、アンナは畳に寝そべり、せんべいをかじりながら、 そして葉は座布団の上に座り、茶をすすりながら、 二人でテレビを見ていた。 日曜の午後の何気ない光景。 そこへ突然、玄関の戸をドンドンと届く音が聞こえた。 続いて 「ごめんくださーい」 と涼やかな声。 「葉、ちょっと出て」 アンナの言葉に葉が玄関まで出向き、戸を開けると、 「エヘへ・・・久しぶり」 一人の少女が、照れたように微笑みながら立っていた。 少女の名は。 葉とアンナの幼なじみである。 「はい、これお土産ね。おせんべいの詰め合わせ」 「ありがと。葉、お茶」 「ええ〜、オイラと話が・・・」 「つべこべ言ってないでさっさと持ってくる!!」 「クスッ、相変らずみたいね、アンナ」 は思わず苦笑する。 「変わってないな、二人とも」 「あんただって全然変わってないじゃない。昔のままよ」 そこへ葉が熱いお茶を持って現れ、三人はしばし昔話に花を咲かせた。 楽しかった。懐かしかった。 幼かったあの頃に戻ったようだった。 しかし、全てが昔と同じではなかった。 (アンナと葉くん、仲良くなったなぁ) 二人は許婚同士だ。 だが見た限り、二人は決して仲睦まじいようには見えない。 (それでもアンナのあの態度は心から葉くんのことを信じてる表れだし、 葉くんもおそらくアンナのこと・・・) そう思うとふっと悲しくなる。 ずっと見ていたから。 葉のことをずっと見ていたから、彼が誰のことを想っているのか すぐにわかる。 いつのまにか、三人で話をしていたはずなのに、 一人取り残されているような感覚に陥った。 話をしている葉とアンナが、ひどく楽しそうに見えた。 はいたたまれなくなり、黙って立ち上がった。 「・・・ごめん。あたし用事思い出したから。帰るね」 「さっき来たばかりじゃない。もう少しゆっくりして・・・」 アンナが声をかけてくれているのに。 は逃げるように、足早にその場を後にした。 家を出るまで、誰とも目を合わさなかった。 空は分厚い雲がたれこめている。 今にも泣き出しそうな空を見上げ、それから下を向いた。 (嫌な態度とっちゃったな。二人とも怒ってるだろうな) そんなことを考えていると。 ふいにぽつり、ぽつり、と雨が降り出した。 は傘を持っていない。 けれどそんなことどうでも良かった。 (いいや、このまま濡れて帰ろう) は再び歩き始めた。すると突然 「!!」 声が聞こえた。 振り返ると、葉が傘も持たずに一目散に駆けて来る。 「葉くん・・・どうして・・・?」 葉は答えずにの手をとると、そのまま走りだした。 「ちょ、ちょっと、葉くん!?」 葉は無言で近くの公園へ駆け込んだ。 公園の中央にある大きな木の下まで行くとようやく立ち止まり、 大きく息をついた。 「ふ〜っ、疲れた〜!」 「ハァハァ・・・葉くん・・・けっこう足速いね・・・」 「ん?そうか?それよりお前、あんなとこでつっ立ってたら風邪ひくぞ?」 「・・・うん・・・でも葉くん・・・何であんなとこに?」 「お前の様子が、何かおかしかったから」 だから来てくれたの? こんな雨の中、あたしのために? 葉の優しさが身にしみて、さっきまでのふさいだ気持ちはどこへやら、 の顔にはすでに笑みがこぼれていた。 「どうしたんだ?何かあったんか?」 「ううん、何でもないの」 やっぱり私は葉くんのことが好き。 彼には想う人がいて、その人はあたしの大切な友達で、 そのことを思うとたまらなく切ないけど。 神様、どうか雨を降らせ続けて下さい。 この雨に浸らせて下さい。 束の間の小さな幸せに、少しでも長く浸っていたいのです。 お願い神様、もう少しだけ・・・。 *あとがき* 初ドリ!お相手は葉くんです! このドリは、昔とてもお世話になっていたサイトさんに 企画として投稿させていただいたものです。 甘々でも何でもないですが、けっこう思い入れのある作品です。 ブラウザバックお願いします。 |