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『ふんばりが丘より愛をこめて 4』 あれから二週間後。 ここは池々袋サンサンシャイン60。 あたしとは葉達と共にこの場所にやって来た。 何故って、今から葉のシャーマンファイト一次予選が始まるからだ。 相手はあのホロホロ。 漫画の世界に入り込んだだけでなく、漫画と同じようにストーリーが展開していることに 気付いたあたし達は、当然予選の結果を知っている。 でもやはりこんなオイシイ試合を見逃す手は無い。 だから、アンナが不満そうな顔でこちらを見ているような気がするけど知ったことじゃないのだ。 「あのさ、なんでおめーらまで一緒に来てんだ?」 葉も困ったような顔でこちらを見ていた。 「細かいこと気にしないの!いいじゃない、見たいんだから」 あたしは強引に押し切った。 それにしても夜中のサンサンシャインって不気味だ。 何でもここは昔、刑務所や処刑場があったらしい。 アンナがさらりと話してくれた。 そんな話を聞いたものだから、余計に気味悪く感じられる。 「葉―――――戦いの装束に着がえるのよ」 アンナがおもむろに持っていた手提げ袋を開けた。 「あたし、東京へ出る前あんたのおばあちゃんに頼まれたの。 あんたがシャーマンファイトへおもむく時、麻倉家の人間としてはずかしくないようこれを着せろと」 「それに、そのサンダルじゃまともに戦えないでしょ」 そう言って手渡された服を、葉はしみじみと感動したように受け取った。 けれど・・・・・・ 「つうかこれ子供の頃の修業着じゃねェかーーー!!これじゃかえってはずかしいだろーーーっ」 こういう服をなんて呼ぶんだろ。 ノースリーブに半ズボンにサンダル。 とにかく寒そう。 そして・・・・・・ダサい。 「見てよ!あのかっこ!あれでこそ葉くんだよねーー、かっこいいー!」 隣りのは定番衣装の葉に賛辞の言葉を浴びせていたが。 あたしは実際に見てみると、漫画で見るより滑稽に見えてしまうのだった。 けどアンナの 「あたしの手作り戦闘装束に何か文句があるわけ?」 このひと言で、笑い出すことが出来なくなってしまった。 ところが突然 「ハッハッハッ!!その格好!名前以上にだせー奴だな、麻倉葉!!」 なんとも恐れ知らずな言葉が上空から降ってきた。 「見て!あそこ!!」 の指差す先を全員で見やると、高い高いビルの上に小さな人影らしきものが見えた。 人影はそのままビルから飛び降り、真っ直ぐに落ちてきた。 否、雪を撒き散らしながら滑降してきたのだ。 あんな高い所から飛び降りることの出来る能力と度胸は、やはりすごいと思う。 無事地面に着地した少年は、スノーボードのオーバーソウルを解いた。 現れたのは彼の持ち霊である精霊、コロポックルのコロロ。 あまりの愛らしさに抱きしめたい衝動に駆られる。 本当に可愛い。 けれども、ほんわか癒しモードに入っていたあたし達にホロホロが一喝。 「かわいいからってなめんじゃねーぞ!こいつの手にかかりゃ てめーなんざ一撃でブッ飛ばされるぜ!!」 そういって指を突き出すホロホロの声で、あたし達は我に返る。 しかしそのホロホロはというと、葉の衣装(アンナ手作り)を侮辱した罪によりアンナに一撃でブッ飛ばされていた。 恐山アンナ、シャーマンファイト第一戦勝ち抜き、勝利のゴングが鳴り響く―――――んな馬鹿な。 「ちくしょー!おめーは出場者じゃねーだろが!名を名乗れ」 「あたしはイタコのアンナ。葉の許婚よ」 「許婚だァ!?何てこった!!オレには彼女さえいねーってのによォー!!」 女の子にやられたこと、葉に許婚がいることに、ホロホロは二重のショックを受けたようだった。 膝をつき、うなだれるホロホロ。 そのホロホロがよろよろと立ち上がると、葉に向かって恨みがましそうな目を向けた。 「女三人もはべらせやがって!いいご身分だな、麻倉葉!」 「は?何言ってんだ?」 「この暴力娘の他に、二人も連れてきてんじゃねーか。こいつらはお前の何だ!? 恋人か?愛人か?畜生、どこまでもオレの上を行きやがって・・・!!」 そう言いつつこちらをじろじろと見てくる。 こいつ、完全に誤解している。 あたし達が葉の愛人でたまるかっていうの。 「違うわ!変な勘違いしないでよね!」 あたしははっきりと否定した。 「じゃあ、何なんだ?」 「それがオイラにもよくわからんのよ」 「何!?お前の連れだろ?」 「いや、まあ、そうなんだが・・・」 ホロホロはともかく、葉まで態度が煮え切らない。 たまらずあたしは口を出した。 「あたしの名前は。そっちの子は。訳あって葉の家に泊まらせてもらってるの。 恋人でもなんでもないわ。余計なことはいいからさっさと試合始めちゃってよ」 「な、まだオレはコロロのことも故郷のことも喋ってねーぞ!? コロロはオレの唯一無二の友達で・・・」 「それはわかってる」 「くそ、何なんだよおめーは!!もういい!説明するよりは見せた方が早いぜ!」 言うや否や、ホロホロは両手を上に突き出し、高く飛び上がった。 「憑依合体、コロポックルのコロロ!!IN スノボ!!!」 気温がぐっと下がり、あたしは思わず身震いした。 ホロホロの目が爛々と輝く。 こいつもやっぱりシャーマンなんだ、そう思った瞬間。 「くらえっ!!カウカウプリウェンペ(あらくれものの雹)」 葉に向かって氷の塊が繰り出された。 その攻撃を、自らのオーバーソウルで受け止める葉。 ほんのわずかな時間でオーバーソウルした葉は、普段ユルく見えてもさすがだ。 時刻は1時59分。 まもなくあたし達の目の前で、シャーマンファイトが始まる。 *後書き* 久々の「ふんばり〜」更新のため、書き方忘れてしまってます; このシリーズは一話をどこで区切るかが難しいです。 そしてどの程度オリジナルな要素をとりいれていくか。 back next |